フィルムは記録する

To the Sunny East

日本郵船が海外への日本紹介を目的にまとめたと思われる長篇記録映画で、残された元素材のフィルムは第6部から最後の第11部(第9部は劣化により尺が短い)までである。観光に訪れた外国人を主人公に、長崎から瀬戸内海航路で関西へ、神戸・京都・宇治・奈良・伊勢神宮と回り、東京へ。日光・北海道を巡って、横浜からサンフランシスコへの帰途に着くところまでが描かれている。京都警察本部での剣術の試技やアイヌの熊踊りなど、多様な日本の文化と伝統を描こうとした意図が伺える。

作品詳細

作品番号
ST000156
映画題名
To the Sunny East
映画題名ヨミ
トゥザサニーイースト
製作年月日
1927
時間(分)
93
サウンド
サイレント
カラーの種類
染色
製作会社
日本郵船株式会社
スタッフ
青地忠三[編緝]小川寛爾[飛行士]嵯峨啓吉[撮影]村田安司[字幕]
本篇冒頭で「ATHENA LIBRARY」と刻まれた木彫り調のデザインに、横浜シネマ商会のスタッフを中心とする上記のクレジットが登場する。また、途中には同社製作の映画『空中撮影 富士 全一巻』(アテナ・ライブラリー第11編、1926年)のメインタイトルが挿入されているが、これらのタイトルと本篇との関係は不明である。
フィルム映写速度
16
備考
元素材は、1998年オーストラリア・メルボルンのThomas Cook AG社が社屋取り壊しの際に発見した日本郵船本店からの送り状が貼られた金属缶に入っていた可燃性35㎜ポジプリント6巻を、2002年度に日本郵船株式会社より受贈。
本篇中、伊勢神宮での撮影許可を得るための書類が登場するが、そこに記された「アルフレッド・ステッド(Alfred Stead)」は、Japan by the Japanese: A Survey by Its Authorities (1904)などの著作で知られるイギリスの親日派ジャーナリスト。デジタル版『渋沢栄一伝記資料』所収の資料によれば、ステッドは映画撮影技師2名を伴い、1926年4月13日に神戸入港のはるな丸で来日。同年5月11日付の渋沢への書簡では、滞在中の厚意に感謝するとともに、撮影した映画を海外で紹介するために然るべき機関の設置の必要性を議論した旨が書かれている。また、日本郵船が海外での日本紹介に関する実情調査のために人を派遣することにも触れている。
一方、日本郵船歴史博物館の調査によれば、英国映画協会(BFI)に35㎜可燃性オリジナルネガ(10巻、9,100フィート)ならびに不燃性ポジフィルム2本の所蔵があることが判明し、BFIより動画データを入手。ロンドンから日本までのはるな丸の航海や、寄港地の観光名所、船内での乗客の様子を撮影した1~5巻目にあたる前半部分をダイジェストした映像が、同館の企画展再展示「帰ってきた『船と主機関―エンジンの変遷とこれから―』」(会期:2022年10月1日~2023年1月29日)において上映された。
また、同館で所蔵する配船表より、榛名丸(1922年1月31日建造)第10次航とし、「1926(大正15)年2月27日ロンドン発、4月13日神戸着、4月17日横浜着」とあることから、『To the Sunny East』のオリジナル版は、ロンドン出発から日本での観光すべてを、アルフレッド・ステッドらの一隊が撮影した可能性が高いと思われる。
なお、日本郵船歴史博物館による調査内容については、同館の協力をいただいた。
参考文献
「航跡 "To The Sunny East"」第42回、2005年10月号
(日本郵船歴史博物館HP)https://museum.nyk.com/kouseki/200510/index.html
デジタル版『渋沢栄一伝記資料』(公益財団法人渋沢栄一記念財団)第39巻本文『報知新聞』第17677号、1926年4月14日(DK390200k-0004)
https://eiichi.shibusawa.or.jp/denkishiryo/digital/main/index.php?DK390200k_text#DK390200k-0004
「書簡 渋沢栄一宛」1926年5月11日(DK390200k-0008)
https://eiichi.shibusawa.or.jp/denkishiryo/digital/main/index.php?DK390200k_text#DK390200k-0008